
研修医とともに学び続ける
私は岐阜県で生まれ育ち、岐阜高校を卒業しました。地元で医療に携わりたいという思いから岐阜大学医学部へ進学し、大学病院での研修を経て木沢記念病院(現:中部国際医療センター)に入職。以来、20年以上にわたり、当院で循環器内科医として診療を続けています。
医師を志した理由は、昔から人の命を救いたいという思いを抱いていたことです。医療の現場では、患者さんの容体が突然急変することがあります。そのような場面において、自分の判断や処置で患者さんの命を救えることに強く惹かれました。
そんな中、大学2年生の頃、循環生理学を学んだことをきっかけに循環器内科に興味を持ちました。心臓の働きが論理的であり、数値や理論に基づいた診療ができる点が、自分に合っていると感じたからです。また、心疾患の治療は患者さんの生死に直結することが多く、大きな責任が伴います。その分、医師としての使命を強く実感できる領域であり、自身が思い描いていた「命を救う医療」に直結していると考え、この道を志しました。
現在は虚血性心疾患を専門とし、心筋梗塞などに対するカテーテルインターベーション(カテーテル治療)を中心に診療を行っています。

大学時代は野球部に所属し、スポーツに打ち込んでいました。しかし、医師として多忙な今振り返ると、「もっと時間を有効に使えばよかった」と感じることもあります。医療の現場では、一分一秒が貴重です。だからこそ、学生時代の自由な時間を活かし、勉強はもちろん、それ以外の経験も積極的に重ねてほしいと考えています。
現在、私は医師として働く傍ら、母校の野球部の監督も務めています。学生たちには、「時間を惜しまず、何かに本気で取り組め」と伝えています。周りと比べて自分しかやっていないことは、大きな武器となります。その内容は人それぞれですが、「自分はほかの人がやっていない、こんな経験をした」と胸を張れるものを持つことが大切です。 部活動でも研究でも、そうした経験が将来の医師人生にとって大きな財産になります。
また、医師に求められるのは、医学知識のみではありません。患者さんとの関わり方や、チーム医療の中での立ち回り方など、さまざまなスキルが必要です。そのためにも、学生時代にできるだけ多くのことを経験し、人生の引き出しを増やしておくことが、よりよい医師になるための礎になると考えています。
循環器内科の大きな特徴は、そのスピード感にあります。心筋梗塞や不整脈など、心疾患は一瞬で生死を分けることが多く、迅速な判断と的確な処置が求められます。例えば、心房細動が発生すると、わずか数秒で意識を失い、1分前まで元気だった人が危機的な状態に陥ることも珍しくありません。だからこそ、私たちの対応一つで、患者さんの予後が大きく変わるのです。
また、循環器内科は、新しい治療技術やデバイスの開発が特に進んでいる分野です。3年前の常識が非常識になるほど、医療の進歩は目覚ましく、日々の学びが欠かせません。 例えば、カテーテル治療一つをとっても、デバイスや技術が次々と更新され、それに伴い治療方法も変化し続けています。こうした変化に対応するための努力は必要ですが、同時に常に最先端の医療に触れられる楽しさもあります。
さらに、患者さんとの関係が長く続くことも、この分野の大きな特徴です。心疾患の患者さんは、治療後も生活習慣の改善や定期的なフォローアップが欠かせません。そのため、長年にわたって同じ患者さんを診続けることができ、医師としての責任とやりがいを強く感じます。この「患者さんの人生に寄り添い、ともに歩んでいける」という点は、循環器内科ならではの魅力の一つだと思います。

当院は地域の中核病院として、地元の患者さんを最後まで責任を持って診る使命を担っています。都会のハイボリュームセンターとは異なり、一人ひとりの患者さんを継続的に診られることが、この地域ならではの特徴です。そのため、単に病気を治すだけでなく、患者さんの生活全体を支えていく視点が求められます。
こうした地域医療の在り方を実感するたびに、医師になったばかりの頃、指導医から受けた「患者さんを自分の家族だと思って診療するように」という言葉を思い出します。地元の患者さんにも、家族に接するように向き合う。それは決して難しいことではなく、治療方針に迷ったときも「自分の親だったらどうするか」と考えれば、自ずと答えが見えてきます。当院で診療を続ける中で、この考え方こそが医療の原点であると、あらためて実感しています。
初期臨床研修は、医師としての基礎を築く非常に重要な期間です。そのため、研修医の指導では、個々の進路や能力に合わせたオーダーメイドの教育を心がけています。
1年目の研修医に対しては、まず基礎をしっかりと固めることを重視しています。研修医ごとに習熟度には差があり、できることもあれば、まだ十分に身についていないこともあります。そのため、それぞれのレベルに応じた指導を行いながら、循環器内科の診療に必要な知識や技術を、着実に身につけられるよう指導しています。
2年目の研修医になると、ある程度その先の進路が決まっている人も出てきます。また、大半の研修医が1年目に当科を経験しているため、2年目は2回目のローテーションとなります。そのため、1回目の研修で教えきれなかった部分を補いながら、それぞれの進路や習熟度に応じて、「この先生にはこういうことが足りない」「逆にこういう部分は強みとして伸ばせる」といった点を見極め、さらに掘り下げた指導を行うようにしています。
また、当院の研修の強みは、少人数制を活かした密な指導にあります。大規模な病院では研修医の数が多く、一人ひとりに細かい指導を行うことが難しいこともありますが、当院ではそれぞれの研修医をしっかりと把握し、個別に指導することができます。これは研修医の成長にとって非常に大きなメリットであり、私たちにとっても、より深い関わりを持てる貴重な機会だと考えています。

研修医の指導は、私にとって大きなやりがいのある仕事です。医師としての基礎を築く大切な時期に、彼らの成長を間近で見守り、支えていけることは、指導医としての喜びでもあります。
特に、研修医にとって「初めての経験」は、一生の記憶に残るものです。私にとっては日々の診療の一場面でも、研修医にとっては医師人生の原点となるような貴重な経験となることが少なくありません。例えば、初めて自分の手でカテーテル治療を行った瞬間や、初めて心臓マッサージで患者さんの命を救った瞬間。 そうした経験が、医師としての礎となっていきます。
また、研修医との関わりは、一時的なものではなく、長く続くこともあります。研修を終えた医師が何年も経ってから、「先生に教えてもらったことが、今の自分を支えています」と伝えてくれることがあります。 そのような瞬間に立ち会うと、自分の指導が誰かの成長の糧となり、医療の現場で生かされていることを実感します。

循環器内科では、諦めないことが鉄則とも言えます。心疾患は急激に悪化することが多く、わずかな判断の違いが患者さんの生死を分けることもあります。そのため、私たちは常に最善を尽くし、何としても救うという強い意志を持って診療にあたっています。
この姿勢は、大学病院や県立病院、市民病院といった公立病院と、地域の中核病院とでは診療のスタイルに違いがあると感じます。大学病院では、最新のエビデンスやガイドラインに基づいた診療が重視されるため、慎重な判断が求められる場面が多くなります。一方、地域医療では、患者さん一人ひとりの状況に寄り添いながら、より柔軟な対応を行うことが求められます。患者さんと近い距離で向き合いながら診療を行えることに、大きなやりがいを感じています。
とはいえ、循環器内科は決して楽な診療科ではありません。緊急対応が多く、体力的な負担も大きいですが、その分、患者さんの命を救うことができたときの達成感は計り知れません。また、循環器内科は非常に幅広い分野を持ち、自分のライフステージに応じてキャリアの方向性を考えることもできます。私自身、これまで第一線で診療を続けてきましたが、現在は教育という役割を軸にし、次世代の医師の育成にも力を注いでいます。年齢を重ねるにつれ、担う役割が変わっていくことも、この分野の魅力の一つだと感じています。
循環器内科の世界は日進月歩です。新しい治療法やデバイスが次々と登場し、学び続けなければならない分野ですが、その分、毎日が刺激的で新鮮です。変化を楽しみながら、自分自身も成長し続けられることが、この仕事の魅力ではないかと思います。
プロフィール
髙橋 茂清

髙橋 茂清
- 福井大学医学部 臨床准教授
- 岐阜大学医学部 平成13年卒業
- 医学博士
- 日本内科学会 総合内科専門医、指導医、認定内科医
- 日本循環器学会 循環器専門医
- 日本心血管インターベンション治療学会 認定医
- official implanter of Micra
(リードレスペースメーカー植え込み医) - 日本医師会認定産業医
- JMECCインストラクター
- ICLSインストラクター
- 厚生労働省 臨床研修指導医
- 植込み型除細動器(ICD)/
ペーシングによる心不全治療(CRT)研修修了証取得