
すべてを担う整形外科の魅力
私が医師を志したのは、中学時代にバスケットボールに打ち込み、怪我で整形外科を受診する機会が多かったことがきっかけです。治療を受けるうちにスポーツと医学を結びつける仕事に興味を持ち、「怪我で苦しむ選手が、最高のパフォーマンスを発揮できるようサポートしたい」と考えるようになりました。
高校卒業後は自治医科大学に進学し、医師としての道を歩み始めました。自治医科大学の卒業生には一定期間の地域医療への従事が義務付けられており、初期研修後は飛騨地域の診療所で5年間勤務。内科診療を中心に地域医療に携わる一方、週に一度は希望する診療科の研修を受け、手術を見学する機会もありました。
診療所で経験を積む中で、「内科医の道を選ぶべきか」と悩んだ時期もありました。しかし、初期研修で経験した整形外科の面白さを改めて実感し、やはりこの道に進もうと決意。義務年限を終えた後は専門医の取得を目指し、現在は当院に入職して4年目となります。

整形外科は外傷や関節疾患など幅広い領域を扱いますが、私は特に股関節の手術に興味を持ちました。そのきっかけは、当院で専門医を取得した直後、上級医の先生から「やってみるか」と声をかけていただいたことです。それを機に股関節の手術に携わるようになり、本格的に学び始めました。当院の整形外科には、脊椎・膝・股関節と、それぞれの分野に精通した専門医が在籍しており、質の高い治療を間近で学べる環境が整っており、その中で指導を受けるうちに、より高度な技術を習得したいという思いが強まりました。
現在、人工関節の手術は一通りの手技を習得し、一定の水準には達していると感じています。しかし、さらに精度を高めるには、関節の角度やインプラントの配置など、細かな調整が欠かせません。その精度を追求することこそがプロフェッショナリズムであり、今も試行錯誤を重ねながら技術を磨いています。
整形外科の大きな魅力は、診断から治療、リハビリまでを一貫して担当できる点にあります。内科と外科が分かれている診療科では、診断と治療の連携が求められますが、当科は一科完結型であり、治療のすべての過程に主体的に携われるところに大きなやりがいを感じます。
また、整形外科は、大工仕事に例えられることもあります。実際、手術ではノコギリやノミ、ハンマーを使い、金属のプレートやネジを用いることも珍しくありません。しかし、それだけでなく、「いかに正確に治療できるか」が求められる繊細な分野でもあります。患者さんの状態を的確に判断し、最適な医療を提供することが、整形外科医の腕の見せどころだと思います。

当院では、研修医が主体的に学べる環境を整え、診療や手術にも積極的に関わることができます。必須のローテーションには含まれていないため、整形外科を選択する研修医は多くいませんが、希望者にはできる限り実践的な経験を積んでもらう方針です。
研修医には、まず基本的な診察の流れや画像の見方を指導し、外来や病棟業務を通じて診療に慣れてもらいます。特に整形外科を志望しない場合でも、当直では骨折や捻挫の患者さんを診る機会があるため、最低限の知識として骨折の診断方法や初期対応は研修中に習得できるよう指導しています。
また、整形外科を希望する研修医には、できるだけ多く手術に参加してもらい、外傷の手術を中心に経験を積んでもらいます。研修医が術中に手を動かす機会を増やし、若手医師としてスムーズにスタートを切れるようサポートしています。特に外傷の治療は整形外科医の基本となるため、実践を通じて学ぶ環境を整えています。
当院の整形外科には、各分野のスペシャリストが在籍しており、それぞれの領域で高度な治療を学べる環境が整っています。基礎をしっかりと身につけられることはもちろん、興味のある分野を深く学ぶ機会があることも大きな魅力です。
また、当院は地域の中核病院として救急医療にも力を入れており、外傷の症例が豊富です。骨折や脱臼に加え、交通事故や転倒による重傷患者の診療に携わる機会も多く、研修医のうちから実践的な経験を積めます。忙しさはありますが、その分、短期間で幅広い症例を経験できる環境です。
さらに、充実した教育体制が整っていることも当院の特徴です。上級医は各分野で高度な治療を行いながら、研修医や若手医師の指導にも力を入れています。また、私たち中堅医師が研修医の身近な相談役となり、日々の診療や手術の学びを支える体制をとっています。手術に参加する際も、指導医と上級医が必ずサポートに入るため、安全を確保しながら技術を習得することができます。

前述のとおり、整形外科は診断から治療、リハビリまでを一貫して担当できる診療科であり、幅広い視野を持って診療にあたることが求められます。そのため、物事を前向きに捉え、柔軟に対応できる人が特に向いていると感じます。
また、患者さんとのコミュニケーションが非常に重要な診療科でもあります。当科を受診する患者さんの多くは、痛みや運動機能の低下を訴えて来院されます。血液検査や数値だけで診断できるわけではなく、患者さんの話をよく聞き、実際に触診して状態を把握することが必要不可欠です。
さらに、整形外科はチーム医療が欠かせない診療科です。手術やリハビリでは、多職種のスタッフと連携しながら治療を進めていく必要があります。加えて、整形外科は扱う範囲が広く、股関節・膝・脊椎などの専門分野に分かれているため、医師同士の連携も不可欠です。自分の専門外の症例に対しては、他の医師と協力しながら診療にあたる場面も多く、周囲と円滑にコミュニケーションを取れることが重要だと思います。
専門分野を決めるうえで大切なのは、良い指導者やロールモデルに出会えるかどうかだと感じます。私自身、専門医を取得した直後に、当院の上級医の先生から声をかけていただいたことがきっかけで、股関節の手術に興味を持つようになりました。その先生の技術や考え方に触れるうちに、自分もこの分野を極めたいと思うようになり、今に至ります。専門を決める際には、どの分野が好きかだけでなく、どの先生のもとで学びたいかという視点も大切だと思います。
また、自分がどのような患者さんを診たいのかを考えることも重要です。整形外科の中でも、スポーツ整形に進むのか、外傷を専門とするのか、人工関節のように高齢者の治療を中心に行うのかによって、診療のスタイルは大きく異なります。
そのため、研修の段階では、できるだけ多くの分野を経験し、自分に合った道を見つけることが大切です。最初から一つに絞るのではなく、さまざまな症例を経験しながら、「この分野なら長く続けられそう」「この先生のもとで学びたい」と思えるものを見極めてほしいと考えています。

整形外科は患者さんの痛みを取り除き、機能を回復させることで、治療の成果が目に見える形で現れるため、大きなやりがいを感じられます。その一方で、救急対応や手術が多く、体力的にハードな場面もありますが、患者さんが回復し、元の生活に戻っていく姿を見られることは、整形外科ならではの魅力です。
これから臨床の現場で学ぶ皆さんには、興味のある分野に積極的に飛び込み、主体的に学ぶ姿勢を大切にしてほしいと思います。当院では、手技を経験する機会が多く、学ぶ意欲があれば実践の場が広がります。経験を重ねる中で、自分に合った分野を見つけ、納得のいく進路を選んでほしいと考えています。
限られた研修期間の中で得た経験は、今後の医師人生に大きな影響を与えます。環境を最大限に活かしながら、多くのことを学び、将来の可能性を広げていってください。
プロフィール
田口 恭平

田口 恭平
- 自治医科大学 平成26年卒業